こんな作品の裏打ちは大変だ!
表具の仕事において、裏打ち(うらうち)は欠かせない工程です。
しかし、作品のサイズや状態によっては、その作業がとても難易度の高いものになります。見た目で難しさがわかれば良いのですが、実際に作業を開始してみて初めて、難しさが判明する、といったことも多くあります。
今回は、裏打ちの作業例をいくつかご紹介し、その難しさや工夫についてお伝えしたいと思います。
掛軸や巻子(巻物)の裏打ち
掛軸や巻子はその性質上、巻ける必要があり、繰り返し巻いたり開いたりを繰り返しても、折れたり・巻き癖がついたりしないように、作品の裏打ちは薄くて丈夫な紙で行う必要があります。
また、裏打ちの回数も1回ではなく、2回・3回と重ねる必要が出ることもあります。
さらに、作品が絹本(けんぽん)の場合、紙の作品(紙本)とは異なり、裏打ち前にしっかりと湿らせて作品を伸ばした後に、乾かす必要があります。
いずれにしても、どの工程も非常に繊細で、慎重な作業が求められます。
作業時の湿気や温度を考慮する裏打ち
日本(関東)の気候は夏と冬で湿度や温度の差が大きく、その季節によって裏打ち作業時の工夫が必要となります。
湿度が高い時期、乾燥した時期、それぞれで紙の伸び縮みや糊の乾き方が異なり、同じように作業しても結果が変わることがあるためです。
そのため、温度計・湿度計、加湿器や除湿器を用いて環境を管理しつつ、その時々の環境を見極めて、「湿りを入れる量(作品に霧を吹いて湿らす水分量)」や「オープンタイム(湿らせたあとの時間のこと。うませとも言う)」、「糊の濃度」などを細かく調整する必要があります。
また、空調の風があたると、そこだけ乾燥が進んでしまうため、真夏や真冬でもエアコンは切って作業をすることもあります。汗が本紙に垂れてしまうと、後々のシミなどの原因となりますので、猛暑の作業は厳しい環境でありながら、大変気を使う作業となります。
絵具や墨の厚みがある作品の裏打ち
墨が厚くのっていたり、絵具が盛り上がっていたりする作品は、裏打ちの際に、墨や絵具が剥落してしまわないか非常に気を遣います。
加えて、墨が厚くなっている作品は、その部分を中心に紙も皺が発生していることが多いです。皺を残さないためには、水気を加えて墨を緩めて皺を延ばし紙を平らにすることが必要です。ただ、それをすることで(わずかとはいえ)作品の印象が変わることもあります。
皺を残すか、作品の印象を活かすか、そのバランスの判断も大変難しいです。
墨汁や筆ペン、水彩絵の具での作品の裏打ち
これらの作品はほぼ間違いなく滲みます。滲まないように、滲み止めの加工を行いますが、その滲み止めのスプレーを吹いた時点で、スプレーの水気で滲むこともあり、そうなると湿式での裏打ちは不可能です。
その場合は、水気を加えない乾式での裏打ちが候補として挙げられます。これは、高温の熱で樹脂を溶かして接着する、アイロンプレスの裏打ちです。
この場合、作品自体に皺があっても水気を加えて延ばすことはできないため、皺がそのまま残った状態で裏打ちを施すことになります。
また、アイロンプレスでの裏打ちは、一度裏打ちをすると、基本的には再び剥がすことができません。特殊な薬品を用いると剥がすことはできますが、落款の色が消えたりといった問題が発生します。
滲むか滲まないか確認したい、という場合は、作品と同じ条件の紙と墨・絵具をご提供いただければ、事前に滲みのチェックや、どのような裏打ちが可能かの検証を致します。
大きな作品の裏打ち
丈2,400mm以上、幅1,000mm以上のような大判作品では、物理的な作業の難しさも加わります。
まず、作品を広げるだけでもそれなりの広い作業スペースが必要です。さらに作品を乾かす際には、
それが張れる板が必要となります。
スペースがあったとしても、それだけの寸法の裏打ち作業の際は、慎重を期すため基本的に2人以上で作業を行います。
古い作品・傷みの激しい作品について
既存の掛軸・額・屏風で、本紙の痛みが激しく、修復が必要な場合は、一度本紙の裏打ちを剥がし、必要な修復を加えた後、裏打ちを再度施します。
掛軸で、本紙に折れや浮きや、染み、汚れがある。額や屏風で、本紙に破れや汚れ、染みがある、という場合は、
その状態によって作業が大変難しいものになります。
結論。どんな作品の裏打ちも簡単ではない。
作品(本紙)を活かすも殺すも表具次第、と言われることがありますが、その表具の最も重要な工程・技術は
裏打ちだとも言えます。
単に糊を付けた紙を作品に張り重ねるだけのようではありますが、実際はその中に、多くの経験と勘に基づく判断が必要な要素があります。
作品の状態を見極めること、作品に加える水気の量、裏打ち紙の選別、糊の濃さ、湿度・温度などの環境、用いる道具、携わる人員、などなど。
これらが仕上がりに直結すると言えます。
お持ちの作品の裏打ちをご検討でしたら、是非当店までご相談ください。
裏打ちについては、こちらのページも是非ご覧ください。


