書・画作品の新規裏打ち、裏打ち直し

ご自身で書かれた書や画の作品はもちろん、

当店には、書道、日本画の作家様、あるいは、

書や画をお持ちの方から、

作品の裏打ちだけしてほしいというご依頼も多くあります。

「裏打ち」とは、作品の裏に紙を張り合わせることで、

作品のシワや折れ、弛みを取り、ピンと張った美しい状態に

することができます。

丈夫な和紙を張り合わせることで、作品自体の補強にも

つながり、耐久性も増します。

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大切な書・画を極力劣化させずに保管するには、まず裏打ち!

作品はそのままの状態ですと年を追うごとに劣化が進行します。

お持ちの作品、折り畳んで保管されていたりしないでしょうか。

和紙は湿らせれば、折れやシワが伸びるとはいえ、

ずっと折られた状態ですと、どうしても折られている部分の

紙の繊維は劣化します。

また、折り畳まれた状態で日焼けや、埃などの汚れが溜まりますと

表に出ていた部分だけ変色が起きていることもあります。

大切な作品であれば、是非速やかな裏打ちをお勧めいたします。

なお、裏打ちができるのは、和紙や絹、裂(布)になります。

これらは水気を加えると伸び、乾くと縮む性質があります。

ポスターやコピー用紙などは洋紙と呼ばれ、和紙のような性質がないため、

裏打ちをすることができません。

そのため、折れやシワが出来てしまった場合、

元の状態に戻すことは難しいとお考え下さい。

(後述しますが、乾式裏打ちは可能です。)

裏打紙の種類について

とりあえず裏打ちしてほしい、という場合、

当店では、鳥の子紙にて裏打ちしております。

鳥の子紙は、通常、ふすまなどの仕上げにも張られる紙で、

厚みがあり、耐久性もあります。

一方で、ゆくゆくは掛軸屏風にする予定があるけれど、

まだ決まっていないので、

とりあえず裏打ちだけしてほしい、

というような場合は、ご要望により紙を変えて裏打ち致します。

軸装の際の裏打ち・工程

本紙に施す最初の裏打ち、つまり直接本紙と接する裏打ちのことを、

「肌裏打ち(はだうらうち)」「肌裏(はだうら)」と呼びます。

掛軸に仕立てる場合の肌裏打ちは、

美濃紙と呼ばれる、薄くて丈夫で耐久性のある楮紙が

用いられることが多いです。

肌裏に続いて施される裏打ちは、

「増裏打ち(ましうらうち)」「増裏(ましうら)」と呼びます。

掛軸に仕立てる場合は、

美栖(みす)紙と呼ばれる、奈良県吉野地方で漉かれている紙が

主に使用されます。

美濃紙と同じく、楮を原料としていますが、ここに胡粉と言われる、

牡蠣の殻を砕いた粉が混ぜられており、それによって、

湿度の変化に対して伸縮が少なく、軸装に適した裏打紙です。

軸装の場合、最終工程の裏打ちには、宇陀(うだ)紙と呼ばれる裏打紙も

使用されます。

こちらも楮が主原料で、そこに白土(=白色の土)を混ぜて漉かれる紙で、

丈夫でありながら、柔らかさも兼ね備えているという特徴があります。

裏打紙の厚みは?

このように、一言で「裏打ち」といっても、

表具師が使用する紙は、用途や目的に応じて

実に様々な種類があります。

さらに、それぞれの種類の紙の中にも厚みによる違いがあります。

一番薄い紙は「極薄口」。

続いて「薄口」「中肉」「厚口」「特厚口」「特々厚口」

求められる内容に応じて、どの種類の紙の、どの厚みを用いるか、

これは表具師の経験と勘に基づく選択になります。

(さらに言うと、その際の接着に最適な糊の濃さや、刷毛の撫ぜ方の判断も。)

どんなものでも裏打できる!乾式裏打ちとは?

ちなみに、、

先ほど裏打ちできないと書きました、

ポスターやコピー用紙など、洋紙の裏打ちですが、

「乾式裏打ち」と呼ばれる方法であれば可能です。

乾式裏打ちには、熱で溶ける樹脂が塗布された裏打紙と、

ドライマウントプレス機と呼ばれる高温で樹脂を溶かしつつ、

裏打紙と本紙を圧着する機械が必要です。

手芸店などで売っている熱転写式のシートを

アイロンでTシャツに貼り付けるのをイメージいただければ

わかりやすいのではないでしょうか。

プレス機は様々な大きさがあります。

大きいものだと、1,200mm×2,400mmくらいのものもあり、

100度以上の高温によって、半切サイズの掛軸も

数秒で裏打ちが出来てしまいます。

その反面、デメリットもあります。

プレス機で裏打ちした場合、

再び裏打紙と本紙を分離することはできません。

そのため、プレスの際にシワや折れがでてしまった場合は

それを修復することはできません。

また、経年で変色が起きてしまっても、

元に戻すことはできないとお考え下さい。

知っておいて欲しい裏打ちのリスクとは?

裏打ちによって、作品がより一層美しい姿になる可能性が

ある一方、裏打ちには様々なリスクも伴います。

にじみ

最も多いのは、墨や絵具が滲むこと。

墨の場合は、墨汁や筆ペンで書かれた書の場合、

裏打ちの際に水気を加えると、墨が滲みます。

(墨が流れるとも言います。)

日本画の場合、滲み止めである

膠(にかわ)と明礬(みょうばん)を混ぜた、礬水(どうさ)液

の塗布が不十分であった場合、絵具の滲みの原因となります。

最近は、簡単に滲みを抑えられるスプレータイプの滲み止めもあります。

当店で作品をお預かりした際に、滲みがおきそうであれば、

その都度相応の処置をしますが、それでも滲みがおきることは

必ずあります。

シワ

また、墨や絵具によっては、裏打ち後もシワが残ることがあります。

使用する墨や絵具、基底材となる和紙、そして書(描)き方。

特に、厚く・濃く書(描)く場合、

その部分だけ、紙が平らではない状態が生じ、シワが生まれます。

裏打ちの際に、水気を加えれば、

多少は墨・絵具が緩みます(完全には緩みません)が、

緩み過ぎてしまえば、元の作品とは別の書・画になってしまいます。

そのため、裏打ちの際は、シワが無い状態にするよりも、

作品の持ち味が残るように、裏打ちします。

結果、シワが残ることはありますが、その点はご理解ください。

埃・ごみ

裏打ちの際には、どれだけ注意していても、

本紙と裏打紙の間に微細な埃やゴミが入ってしまったり

することもあります。

ほとんどの場合、言われても気づかないような

小さなものです。

しかし極まれに、表から見て気になるゴミや埃が

入ることもあります。

もちろんその際は、裏打ちを剥がして、ゴミ・埃を

取り除いて、裏打ち仕直します。

ただ、先述の乾式裏打ちの場合、裏打紙を剥がすことができないため、

ゴミ・埃を取り除くことができません。

作業に当たっては細心の注意を払って行いますが、

そういったリスクもあることをご理解ください。

裏打ちは是非、表具師にご相談を!

大切な作品の裏打ちでお悩みの場合、

是非、表具師にご相談ください。

思い入れのある紙本、絹本はもちろん、

Tシャツや手拭いなども裏打ちできます。

目的や用途に応じて、最適な方法をご提案できますので、

是非ご検討ください。

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