「東京手仕事」プロジェクトに参加して、表具の新商品を開発しました

昨年度より、武笠表具店では、公益財団法人東京都中小企業振興公社が
主催する「東京手仕事」プロジェクトに参加し、表具の技術や素材を使った
商品開発に取り組んでまいりました。

今回は、その一年間の取り組みについて、少し振り返ってみたいと思います。

◆

きっかけは、所属している一般社団法人東京表具経師内装文化協会の定例会でした。
「東京手仕事」プロジェクトのチラシを目にし、同じ協会の神山表具・髙橋会長が、
2024年度に参加されていたことを知りました。

私たち表具師の仕事は、掛軸や屏風、額、襖など、いずれもお客様からのご依頼が
あって初めて成立します。
(この画を掛軸にしてください、とか、この屏風を修復してください、とかです。)
まれに、「掛軸を買いたいです」というお客さんがお店に訪ねていらっしゃることがありますが、
残念ながら、たいていの表具屋さんでは掛軸に限らず、店頭で何かを販売してはいません。

ですが、他の多くの伝統工芸品と同じように、表具師も、お店で販売できる商品を
作ってみても良いのでは、と思っておりました。

この手仕事プロジェクトに参加すると、下記のサポートが受けられるとのこと。

1.ハンズオン支援
 専任の商品開発アドバイザーによる開発サポート。
2.キーマンヒアリング
 バイヤーなどキーマンからの所感やアドバイスをフィードバック。
3.テストマーケティング
 実店舗で来店客にアンケートを実施。
4.経費補助
 試作品及び完成品に係る経費を補助。
5.ビジネスパートナー
 協働するビジネスパートナー(デザイナー等)の委託料を負担。

「これはぜひ挑戦してみたい」と思い、応募を決意しました。

◆

2025年4月に応募し、5月には支援事業者として内定。
商品開発アドバイザーさんも決定し、2026年3月の企画終了まで支援いただくことになりました。
さらに、商品開発の提案をいただく「ビジネスパートナー」の募集も開始。

まずは、事業者紹介用のプロモーション動画を撮影していただき、
その動画をもとに、応募を募るという流れでした。
おかげさまで多くの応募をいただき、まずは書類選考を実施。

続いて、7月にはマッチング会が開催されました。
書類選考を通過した方々と実際に面談し、新商品の提案を受けます。
どの提案も非常に興味深く、自分では思いつかない視点ばかりでした。
その中で、特に「表具の技術や構造」をご理解いただき、実現性が高そうな案を
提案してくださったデザイナーの野村悠さんとチームを組むことが決定しました。

◆

早速打合せを重ね、試作製作がスタートしました。
今回開発に取り組んだのは、屏風の「紙番(かみつがい)」構造を応用して開閉させるミラーです。
特に苦労したのが“下地”の手配でした。
当初は、襖や屏風の骨組みのように、木工下地にしようと考え、
様々な木工所・家具屋さん・建具屋さんへ相談しました。

しかし、

  • 厚みが出てしまう
  • 重量が重くなる
  • コストが高くなる

などの壁にぶち当たりました。

◆

そんな中、アドバイザーさんやデザイナーさんにご協力・ご紹介いただき、
国分寺のイノベーションフィールドや、青海の地方独立行政法人東京都立産業技術研究センターにて、
3Dプリンターでのモックアップを製作しました。

そして10月末、モックアップをもとにひとまず試作品を完成させました。

◆

11月には、その試作品をコレド室町の「日本百貨店」に置いていただき
テストマーケティングを実施。
私自身も店頭に立ち、お客様へ商品説明をしながら、率直な感想を伺いました。
正直、完成度としてはまだまだでしたが、思っていた以上に、

  • 「開け閉めが面白い」
  • 「裂地の質感が綺麗」
  • 「サイズがちょうど良い」

など、温かいご意見も多くいただきました。

◆

12月、下地構造について大きな方向転換を行いました。
木工による構造を断念し、厚紙を使用する方向へ変更。

結果として、薄さ・軽さ・コストのバランスを取る上で、非常に良い選択になりました。
また、裂地については、マスミ東京さんにご協力いただき、実際のコストや量産性も考慮しながら選定を進めました。

何度も検証・修正を繰り返し、2月頃にはようやく完成形が見えてきました。

この頃には商品名称も考案。アドバイザーさん発案の名称、「鏡」と「屏風」から「鏡屏(きょうびょう)」に
決定しました。類似の商品や商標がないかなど知財関係もクリアにしました。

その後も、

パッケージ
梱包材
取扱説明書

などを制作し、販売価格も決定しました。

 

2月末に完成した成果物を東京都中小企業振興公社へ最終提出。
3月には審査会が行われ、審査員の前でプレゼンテーションを実施しました。

そして3月中旬――

無事、審査通過!

晴れて「東京手仕事プロジェクト認定商品」となることができました。

◆

「鏡屏」は、屏風の開閉部分に使われる「紙番(かみつがい)」の構造を応用した商品で、
和紙と裂地によって開閉するのが特徴です。
金属の蝶番とは異なり、360度開閉することができます。

折りたたんだ状態でコンパクトに持ち運びでき、
開けば自立する卓上ミラー、反対側に開くと手鏡として使うことができます。

素材には、実際の表装作業で使用している和紙や裂地を使用。
また、日常で使いやすい道具として成立させるため、

少しでも薄く軽くすること
反りにくくすること
毎日使える耐久性を持たせること

などを重視しながら開発を進めました。

◆  

そして2026年5月26日。

令和7年度「東京手仕事」プロジェクト商品発表会が開催されました。

 

審査を通過した20商品のお披露目会です。

20商品のうち、特に優れた3商品が都知事賞・理事長賞・優秀賞の受賞対象となりましたが、
残念ながら「鏡屏」は受賞には至りませんでした。

ただ、会場では 小池百合子都知事に直接商品説明をさせていただく機会をいただき、
「素敵な商品ですね」とのお言葉をいただくことができました!

 

◆

今回のプロジェクトを通して、商品開発の難しさと面白さ、そして表具技術の可能性を改めて感じました。
表具の技術や素材を用いて、より現代の暮らしの中で親しまれる商品を生み出すことも可能だと思います。

これからも、伝統的な技術を大切にしながら、新しい表現や使い方を模索していきたいと思います。

Follow me!