デザイナーズ和室
和室の建具の張替えを承っています。
もちろん、新築のお宅の障子・ふすまを製作したり、
古くなった障子・ふすまを交換し、
新規で製作するご依頼もありますが、
近年、和室が減少し、
新築戸建てはハウスメーカーが建てるのが一般的な中、
和室はあっても、申し訳程度ということも珍しくありません。
◆
そんな中、友人のAさんから、
「家を建てるので、寝室にする和室の障子・ふすまをデザインして欲しい」
との依頼をいただきました。
本当に今時貴重なご依頼です。
しかも、「(ある程度)武笠の好き勝手にやっていい」との
器の大きいお申し出もあり。
◆
そういうお話しであれば、
普段のご提案に使うようなふすま紙や障子紙から選ぶ、
なんて訳にはいきません。
武笠表具店にしか作れないもの、を心がけて提案しました。
ポイントは3つ。
・毎日使う部屋だから 『 落ち着き・やすらぎ 』 を感じられるスペースに。
・『 伝統的な素材・技法 』 を使って、和の趣のある良質な空間に。
・一般的な和室とは違う、 『 家主のこだわり 』 が感じられる場所に。
以前から私がやってみたかった試みをふんだんに盛り込んだ内容でしたが、
本当に懐の深いAさんと奥様に無事に採用いただきました。
◆
Aさん邸和室の建具は4つ。
「押入れふすま」。
掃出し窓の「障子」。
廊下に面した「けんどん障子」。
入口の「戸ぶすま」。
です。
◆
まずは「押入れふすま」。

最高級のふすま紙とも言われる、葛布(くずふ)を使用しました。
葛の茎の繊維を使って織った布で作られたふすま紙です。

丈夫で破れにくいのはもちろん、10年以上かけて、
徐々に味のある飴色になっていくのが特長です。
普通のふすま紙は、数年で穴があいたり、
日焼けによる変色が起きたりして、張替えが必要になることが多いですが、
葛布のふすま紙は、長ければ30年以上張り替えずに使用することができる、
とも言われます。
ちなみに、張って40年ほど経った葛布のふすま紙はこんな感じです。

そんな耐久性のあるふすま紙に合わせて、骨(下地)も
通常より頑丈な作りにしました。

右が通常のふすまの骨。左が今回採用した「平骨(ひらぼね)」です。
縦の組子、横の組子、さらに引手板の少し上に通っている力子と呼ばれる骨、
それぞれが太く作られているのがお分かりいただけるかと思います。
良質で伝統的な素材を使い、経年で見映えが変化することで、
新築時からの時の流れを感じてもらえれば、
との想いで提案しました。
◆
続いて、「障子」。

陽当たりの良い南側の窓に面した障子です。
均一なグリッドで室内に射す光も美しいですが、
ここは、武笠表具店らしい、遊び心を。
ということで、組子を不均一な形状にしました。
かつ、張る紙は部分的に障子紙ではなく、
民芸紙など、色味のある紙を使用しました。

◆
さらに「けんどん障子」。

こちらも窓面の「障子」と同じデザインです。
ただ、こちらの「けんどん障子」は廊下側からも
見える構造のため、どちらを表にしようか迷い、
結果、和室内、廊下側、どちらからみても表に見えるよう
設えました。

障子の表は、組子が見える方、
裏は組子が見えない方を言います。
通常は、滞在時間が長い和室内がより重要なので表となり、
和室側から組子が見えるようにします。
ただ、今回は廊下側が飾り窓になっており、
そちらからの見映えも疎かにできないと考えました。
いろいろ悩んだ結果、和室内、廊下側、どちらから見ても
見映えの良い(組子が見える)仕様にしたら良いのでは、
との結論に落ち着き、提案し、採用いただきました。
◆
最後に和室入口の「戸ぶすま」です。
廊下側は芭蕉布のふすま紙を張りました。

この芭蕉布も、葛布同様、高級・上質なふすま紙で、
耐久性があり、経年で味わいのある色に変化していくふすま紙です。

本来、芭蕉布とは、沖縄産の手織りの布を言うそうですが、
ふすまに使用する芭蕉布は、静岡で作られているものだそうです。
糸に光沢があり、天然素材ならではの趣があります。
洋室が連なる廊下にあっても違和感なく馴染み、
かつ、和室の入口としての格式がある、
という点で最適なふすま紙だと思います。
続いて、和室内側。

見た目は、障子と同じような不均等なグリッド、
かつ部分的に濃い色味を加えて
アクセントになるよう構成しました。
ここから先は、
「(ある程度)武笠の好き勝手にやっていい」の部分。
他の表具師さんではできない(というより、やらない)ことを
やろうと思い、考案しました。
『布団張り風 戸ぶすま』
一つずつのグリッドは麻などの天然素材の裂を使い、
クッションを包み込んだ、柔らかみのある仕様です。


布団張りは通常、家具や壁面で使用されます。
その技術を応用しつつ、戸ぶすまに使いました。
寝室の出入口として、毎日必ず開け閉めする重要な場所であり、
部屋の雰囲気を象徴する建具でもあります。
かつ、高さ(2ⅿ)もあるので、重厚感や圧迫感を感じさせないような
柔らかみのある扉がふさわしいと考えました。
◆
今回の和室の設えがAさんに適してるかどうかは、
今後の生活を経ないとわからないところはありますが、
私としては現時点でも100%の自信をもって、
「最高の和室」と断言できます!
◆
もし、このような「最高の和室」、
をご検討されている方は
是非、当表具店までご連絡下さい。