「第66回表装・内装作品展」出展作品のご紹介
(一社)東京表具経師内装文化協会主催の作品展「第66回表装・内装作品展」が、本日(6/15)から6/21日(火)まで、東京都美術館1階 第1展示室にて開催されています。
私は、昨年(2022年)の「第3回 掛軸と絵画の未来展」に出展した作品と、もう一点新作を出展いたしました。その新作の方についてご紹介してまいります。
掛軸を仕立てた際の悪い評価で、「表具が勝ってしまっている」という言葉があります。または、「本紙が死んでしまっている」という言われ方もあります。どちらも、本紙(作品)に対して、表具(周りの布)の存在・主張が過剰で、作品の魅力を損ねてしまっている、ということを意味しています。掛軸の主役はあくまでも本紙。それを引き立て、より魅力的に見せるのが表具の務めです。普段のお仕事では、常にそれを頭に置いて本紙と対峙していますし、表具師にとって本紙とは、超えてはならない絶対的な存在なのです。(個人の感想です。)
一方で非常に悩ましいのが、冒頭でご紹介した、年に一回開催される「表装・内装作品展」です。普段のお仕事とは違い、これは表具(表装)のすばらしさを見せる作品展です。どんな本紙を選ぶかも、各表具師次第です。手元に自分の表具の魅力を充分に伝えられるような本紙があれば何よりなのですが、それがない場合は「どんな表具にしよう」の前に「どんな本紙を、どこから調達しよう」と悩むことになります。
個人的にこういった作品展では、他の人がやらないことで多少なりとも耳目を惹ければと考えています。(まともに仕立てても私の技術・経験値では、どう頑張っても他の方の足元にも及ばないため。。)
そうすると、なおさら本紙の存在が重要になってきます。どんなに周りの裂(布)で奇をてらったところで、結局目が行くのは本紙です。他の人がやらない掛軸を作るためには、他の人が入手できない本紙を手にする必要があります。過去には、インターネット上で公募して作品を制作してもらったこともありました。また、昨年はあえて本紙無しの掛軸を選択しました。さて、今年はどうするか。。
そんな中、たまたま友人との会話中に「ChatGPT」や「NFT」というワードが出てきて、画像生成AIで本紙を制作することを思いつきました。表具との相性を考え、浮世絵をモチーフとしつつも、現代風の画となるよう、「現代風(modern style)」「東京(tokyo)」といった指示をし、生成された画像を、さらに別の画像生成AIに放り込んで加工したりしつつ、さんざんこねくり回して、好みの本紙にたどり着きました。
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元はこんな画。(この画に行き着くまで数百枚描画してこれが一番気に入りました。)

東京っぽさがないので、東京タワーを描き加え。

横長の構図にしようと思い、横に伸ばしていきます。

さらに伸ばしたら、橋が出てきました。レインボーブリッジっぽくて良いかも。

ここまで横長な必要はないので、適当なところで切りつつ、このままでは解像度が低いので、それもAIで高解像度化します。

こちらが、(ほぼ)完成品。掛軸にする際、左と上下はもう少し詰めました。
これを顔料インクで楮紙に出力して、本紙が完成。(専門の会社に依頼しました。)
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それなりに時間はかかりましたが、画家や書家のあてがない中、これほど簡単に好みの本紙に到達できるとは思ってませんでした。あと数年したら「表装・内装作品展」の本紙はAI描画も当たり前になるかもしれません。本当は掛軸自体のデザインもAIにお任せしようと思い、何度か試したのですが、さすがのAIさんも掛軸についての知識は浅いようで、そこまで精度が高くなく、断念しました。これも向こう数年で改善されるかもしれません。
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そうこうして仕立てた掛軸がこちらです。

表具に関しては、画が引き立つよう、形は比較的オーソドックスな創作表具で、筋割風帯にしました。裂については、本紙の海や空の色が拡がっていくような印象となるよう、本紙と同色の青と、それに合うよう白色と水色の裂を使いました。画像生成AIツール「DALL·E 2」を使用すると、右下に5色のカラフルなマークが自動的に付与されるのですが、それにちなんで、各所にいれた筋はカラフルなものにしてみました。

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以上、「第66回表装・内装作品展」出展作品のご紹介でした。
最後に、ChatGPTに、AIを使って画を描く意味について質問してみました。回答は、
「私たちは、AIによる自動作成されたイラストが、人々の創造性を刺激し、新しいアイデアを生み出す可能性があると考えています。また、AIによる作品作成は、人間と機械の協業が進んでいく未来につながる可能性もあります。さらに、AIによる作品作成は、時間とコストを節約し、より効率的に業務を進めるための一つの手段となり得ます。」
とのことです。すごいなAI。