第3回 掛軸と絵画の未来展、出展作品のご紹介【前編】
私(武笠敦史)も所属しております、
江戸表具研究会「表粋会」主催の作品展、
「第3回 掛軸と絵画の未来展」が、
先日、大好評のうちに終了しました。
私も、新作掛軸1点と、第2回未来展の際に制作しました作品の
計2点を出展致しました。
この未来展、どんな作品展なのか、
表粋会のブログにて説明がありますので、
是非、こちら(計画初期から会期直前までの様子)と
こちら(会期中の様子)をご覧ください。
◆
私が今回出展した作品はこちら。

四角以外のかたちの掛軸を制作するのは初めてで、
というか、四角以外の掛軸なんて見たことも聞いたこともなく、
ネットで検索をかけても、四角以外のかたちの軸は
出てきませんでした。
来場された方からの評判も上々で、
総じて「すごいの作ったね(笑)」という感じでした(笑)
◆
未来展の会期から遡ること7ヶ月。2022年1月16日。
美大の学生・院生さんから表粋会に寄せられた29点の画。
どの画を、誰が掛軸に仕立てるか決める大事な一日でした。
各表具師が自分が担当したいと思う画の番号を紙に書いて投票し、
他に希望者がいなければ、その人が担当。
希望が被ればじゃんけん。というシステムです。
私が一目見て気になったのがこの画。

掛軸用の本紙で曲線があるとしたら、
扇や団扇のかたちの本紙。
それ以外で曲線のある本紙を目にしたことは
今までありませんでした。
しかも、この画は周囲がいびつな曲線で切り取られています。
正直、この時点では、どんな掛軸に仕立てるか、
さっぱりイメージが湧きませんでした。
せっかく「掛軸の未来」を標榜する作品展、
これは誰も見たことがない画にチャレンジするしかない、
とばかりに、この画を第一希望にしました。
結果は無事、落札!
この画を担当させてもらえることに決まりました。
◆
2022年1月23日。
この日はこの画を描いた画家さん、
ネルソン・ホー・イーヘンさんとの打合せの日でした。
通常、画を掛軸に仕立てる場合、
画家さんの方から、どんな裂を使って、どんな形で、
と、細かい指定をいただきます。
ですが、掛軸と絵画の未来展の場合、
画が画家さんの作品であるのと同様、
表装の部分は表具師の作品でもあります。
そのため、あえて、画家さんにどのような色や形にしたいかは
聞かないことになっています。
ただ、その画が意味しているもの、どのような背景で描かれた画なのかを
ヒアリングしないと、画と表具がバラバラの作品になってしまうため、
それを避ける上で、画家さんと表具師の打合せの場が設定されています。
ネルソンさんから描かれている画の意味をうかがい、
理解を深め、表具のイメージを膨らませます。
一点だけ、確認したかったことがありました。
先述の扇や団扇の本紙など、四角以外の本紙の場合、
台紙と呼ばれる四角い紙に張って、かたちを整え、
掛軸に仕立てます。
ネルソンさんに、この台紙張りの是非をうかがいました。
回答は、「画をこのかたちにしたので、四角じゃない方が良いです。」
ですよね。私もそう思います。
台紙に張って四角にしてください、
と言われればものすごく楽だったのですが、
そう言われずに、ちょっとホッとした自分がいました。
◆
しかし、ここから苦悩の日々。
何せ見たことがないかたちの本紙なので、
どう掛軸にするべきか、本当に悩みました。
たどり着いたのは、掛軸云々ではなく、
この画を活かせる形と色を純粋に考える、でした。
この画のタイトルは「これからもよろしく」
新しい恋に踏み出すことへの不安や心配、
これまでの嫌な経験がまるで悪夢の波のように頭の中で再生され続ける、
でも相手が手を取ってくれる限り、
どんな大きな問題も一緒に乗り越えていける、
そんな想いで描かれた画です。
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それを踏まえて。PCでひたすらデザイン考案。
行きついたのがこちらです。

本紙の色味を活かすべく、
周囲の裂は白、グレー、赤で構成しようと決めました。
裂のかたちは、画に描かれている渦のようでもあり、
2人が手に持っている花のようにも見えるようにデザインしました。
奇抜な本紙と、奇抜な裂の緩衝地帯として、
本紙のかたちからイメージした「台紙」を三層入れることにしました。
先述の四角の台紙とは違い、本紙のかたちに即した
いびつな台紙です。
◆
床の間に飾る掛軸、
洋間・リビングに飾る額やパネルも
基本的にかたちは四角です。
「未来の掛軸」を志向する上で、
外周が曲線の掛軸があっても良いのでは、
と思ったのも、このデザインに決めた理由の一つです。
◆
続いて、寸法を決めます。
プロジェクターで原寸投影し、
本紙に対して、どれくらいの裂や台紙が適当か
検証しました。


そんなこんなで、寸法も決定。
次は使用する裂と台紙の紙を選びます。



こんな感じで揃えました。
と、ここまで本紙を活かすことだけを考えて
進めてきましたが、果たして、こんなかたちの掛軸、
作れるんだろうか、という不安が湧いてきました。(今さら?)
仮に作れたとしても、掛けた時に、
左右の円の部分が、べにょんべにょんとなったりはしないだろうかと。
通常の掛軸は、軸棒が掛軸の総幅より外に出ていて、
それによって裂全体にテンションがかかり、
きれいに掛かるようになっています。

対して、今回の掛軸は、軸棒よりも外に円形の裂が出ており、
その部分は何のテンションもかかっていないことになります。

何分、前例がなく、参考になりそうな情報もないため、
とりあえず試作を作って検証してみることに。




ん??意外と大丈夫そう。
今回のデザインよりさらに裂がべにょんべにょんになりそうな
造りにしてみましたが、なんか全然大丈夫な感じ。
案ずるより産むがやすし。
では、このデザインで進めてしまおう!と決めました。
◆
まずは、本紙(画)の周りに台紙を張るところから。
いびつなかたちの台紙を作るため、
厚紙で型を作りました。

これを使って、本紙の周りの台紙張りが完成。


続いて、裂の部分です。
ん?いや、裂の部分、どうやって作ればいいか考えていませんでした。。
長くなりそうなので、今回はこの辺で。
後編はこちらです。